松本全廣さんのこと。

篆刻家の松本全廣さんに書いていただいた
「やっぱりめしだ。」という文字を掲げたときから 
ごはんや一芯は流行り出し、お店が育っていきました。

以来、僕の中では全廣さんの書は神がかったものとして映るようになり、
それ以降もお店を新しくつくるたび全廣さんにロゴをつくっていただき、
そしてお店が流行っていく。店づくりの方程式のようになっていきました。

松本全廣さんがつくられた 
「守拙巧妙(しゅせつこうみょう)」という
判子があります。その言葉の意味するところは、
「気取った感じでなく拙く控えめ。 
けれど巧みで優れた有様」
というものです。

それは私たちの考える料理の味と通じています。
凝った細工をして派手な味付けをするよりも
何より素材を大切にして
味の表現は極めてシンプル、
けれど飽きが来ない味わいがある。 
それが本当に美味しい料理ではないか。

だから、全廣さんのアートは、
私たちの考える美味しさというものを
的確に表現してくれている。そう感じています。

我々が“ごはんや”を営む上での根幹的な部分、“要(かなめ)”を
全廣さんの書が担ってくれていました。
だから、一芯の代官山店や神戸店に来ていただくとわかりますが
「やっぱりめしだ。」の書は店の奥に据えられた神棚に
大切に飾られています。

今から20年以上も前、
恵比寿三越で書の展覧会をしていた
松本全廣さんと偶然に出会い、
初対面だったにもかかわらず、感じるものがあって
「やっぱりめしだ。」と文字を書いてくださいとお願いしたあの日から
私たちのごはんやは前進し始めることができました。
だからこそ、2008年、全廣さんが亡くなったと聞いたときは
茫然自失でした。

しかし、歴史はつないでいくもの。 
茶漬け 分福 – cha-zuke BunBuku」や、
2022年にリニューアルした「とうふ 空野 恵比寿店」のロゴは
松本全廣さんの奥様である松本冬美さんが手掛けてくださっています。
「とうふ空野 恵比寿店」は冬美さんのアートがよく合って
お店の価値を上げてくれています。

松本全廣(まつもとぜんこう)
1952年、横浜に生まれる。篆刻(てんこく)、陶芸、絵画、書、木彫など幅広く創作。1996から長野県東御市に游印肆玩古堂工房を開く。2008年、逝去。

松本冬美(まつもとふゆみ)
1982年、東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。篆刻(てんこく)の他、版画・ドローイング・陶オブジェなど創作。2008年、夫・松本全廣より「玩古堂」を引き継ぐ。

茶漬け 分福– cha-zuke BunBuku
とうふ空野 恵比寿店